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「買った当初の状態は、あまりよくなかったですね。湿気の多い土地に、長く置いてあったようでした」
フレームの一部に木材を使用しているのは、モーガンの特徴のひとつ。ところがその木が腐っていた。内装やツートーンの塗装はもとより、内部のパーツにも傷みが出ていた。
買って3年目にフルレストア。それからは好みのパーツを加えたり、ステアリングを取り換えたりと、少しずつ手を入れながら自分仕様に高めてきたという。
「古い車ですから、具合が悪くなって修理に出すこともしばしば。カミサンにはいつも、モーガンは車じゃない、家族なんだと言ってます。たまには病気にもなるよ、と」
ふだん使いの他、愛犬を乗せて、夫婦であちこち旅にも出た。四国を走ったり、北海道を回ったり。
「車体が軽くて馬力があるから、スピードも出ます。僕の車で、重さ700キロで1600cc。モーガンは1962年のル・マンでは優勝もしている。当時は世界でトップクラスの性能だったんです」

オーナーの同好会であるモーガンクラブでも、毎月のようにツーリングがある。皆で泊まりがけの旅行にも行くし、大会やラリーなどのイベントも楽しむ。昨年、息の合う仲間たちと立ち上げた「モーガンクラブ・ニッポン」は、今やメンバー60人。哲也さんはクラブのステッカーやバッジ、Tシャツなどのデザインも一手に引き受けている。
「同じ車に、これだけ長く乗ったのははじめて。車自体の魅力に加えて、仲間と交流する楽しみがあるからなんでしょうね」
夏の暑さはオープンカーにはきついが、春や秋は快適。十分に着込んでゴーグルとヘルメットを着け、冬の寒さの中を走るのも気持ちいい。では雨の日には?
「少々の雨ならオープンのまま。走っている間は気になりません。ただ、信号待ちでとまっている時がね……」
決して“便利”な車ではない。サイドウインドーはじかに手で開く引き違い戸だし、外側に取っ手のないドアは、幌(ほろ)をかけている時には窓から手を入れて開けるしかない。車内は狭く、大きな荷物は車外のトランクキャリアに固定する。走れば髪はボサボサになるし、排ガスで顔も汚れる。フロントウインドーを倒し、顔の正面に立てたレーシングスクリーンだけで走ることもある。ただし、高速道路では覚悟が必要だ。小石や虫が額に当たるのだ。
「日焼け対策も必要だし、乗る前の準備が大変なの」と裕美さん。それでもモーガンは、2人にとって格別の存在だ。

ノベルティーやミニカー、古いカーバッジなど、モーガンにまつわるコレクションは、この18年の間にずいぶんと増えた。コレクションに似合うイギリスのアンティークグッズも、いつしか暮らしに溶け込んだ。イギリスの男たちのように自ら手を動かし、作り上げた別荘には仲間たちも集う。歯科医として多忙な日常を一歩離れれば、そこに愛すべきイギリス車がある。
「どんな仕事にもストレスはある。僕にとって、それを解消する最善のものがオープンカーと別荘」という哲也さん。来年は、モーガン・モーター・カンパニー100周年イベントに合わせて、なんとかイギリスを訪ねられないか。別荘の庭に計画中のガレージのデザインも決めなくては。そんな悩みのひとつひとつに、日々、ひそかに心を弾ませる。

哲也さんがさしている傘はイギリス国旗の柄。長方形なのは、国旗の形を生かしたせいとも思えるが……。「これ、モーガンに乗ったままさすためのものなんです」。雨の日にオープンで走ると、信号待ちの間に人も車内も濡(ぬ)れてしまう。このサイズの長方形なら、とまるたびにサッと開けば、助手席側までカバーできるというわけだ。モーガンクラブの仲間同士で考えつき、中国で安く作ってもらった。「でも、ホネの数が4本だけでは作りがヤワで」。結局、車での使用には耐えないものに。クラブメンバーに配布はしたが、誰も使っていないというまぼろしの一品である。

黒崎哲也(くろさき てつや)
1955年東京都生まれ。小学生時代から兄の影響で車に興味を持つようになった。技術を持って独立しようと歯科医を志し、日大歯学部へ。美術部では好きな絵に親しんで過ごした。29歳で都内に歯科医院を開業。以降はさまざまなイギリス車を乗り継ぐことが最大の趣味となった。都内で出会ったモーガン4/4のオーナーになったのは93年。モーガンスポーツカークラブ・ジャパンで千葉支部長を務めた後、2007年に仲間とともにモーガンクラブ・ニッポンを立ち上げる。デザインから調度まですべて自分で考えた別荘は2000年末に完成。クラブのイベントのない週末は、妻の裕美さんと一緒にジャックラッセルテリアの「パッチ」を連れて訪れ、建物と庭の手入れにいそしむ。

文 :秋川 ゆか
写真:伊田 淑乃
(更新日:2008年06月10日)
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