貯蓄から投資へ、あるいは団塊世代の大量退職が平成19年度から始まったことから、投資信託へ大量に資金が流入し続けている。平成19年度末の株式投資信託の純資産残高は、7年ぶりに減少したと投資信託協会が発表しているが、購入額から解約・償還額を差し引いた資金流入額は11兆5000億円にも上る。平成20年3月という1カ月間を見ても、株式投資信託への資金流入額は3174億円となっている。なぜ、純資産残高が減少と発表したのかと言えば、運用成績が13兆2000億円ものマイナスであったからにほかならない。米国のサブプライローン問題により、国内外の株式が大幅に下落したうえ、円高により外貨建て資産の評価額が下がったことが運用成績を悪化(純資産額の減少)させた要因であるようだ。
純資産残高の増減はともかく、金融機関にとって投資信託は、安定した収益を確保しやすい金融商品であることに変わりはない。販売時に募集手数料、投資家が保有している間は、信託報酬が継続的に入ってくる。このため金融機関の販売姿勢は、ときには高圧的(売る側の押しつけ)なこともありえないわけではない。そんな金融機関の販売姿勢に一石を投じる投資信託の運用会社が、続々とうぶ声をあげ始めている。販売会社(金融機関)を通さず、運用会社が直接販売する方式で躍進しているのが「さわかみ投信=純資産残高2395億4300万円」。そのさわかみ投信の沢上篤人社長が提唱する「おらが町投信」に呼応する運用会社が、平成20年3月、4月の2カ月間で3社も誕生している。東京以外に本社を置く初の運用会社「浪花おふくろ投信=純資産残高8700万円」、学校の先生が中心になってつくった「楽知ん投信=純資産残高1億1900万円」、市井(しせい)に暮らす生活者の経済的自立をお手伝いする「かいたく投信=純資産残高7800万円」(いずれも純資産残高は平成20年5月2日現在)。各運用会社は、直接販売を貫き、かつ運用する投資信託も1社1本に限定している。投資信託の運用会社は、投資信託を金融機関に売ってもらわないと商売にならない。勢い、投資家のニーズにこたえるよりも、おのずと販売金融機関にこたえようとするあまり、似通った投資信託の粗製乱造がまかり通ってしまう。おらが町投信は1本しか運用(販売)しないのだから、そのビジネスモデルは投資家と一蓮托生、逃げも隠れもできない。長期投資という哲学を貫徹し、かつ運用実績をあげ続けなければ投資家は購入を控えるだろう。販売会社が売りやすい投資信託を組成して、短期的に収益を確保してしまう既存の運用会社とは大違いなのである。
折しも、ファンド資本主義を掲げた欧米の金融機関が、短期的な収益に走った結果、サブプライムローン問題という、戦後最大級の金融危機を招いてしまった。おらが町投信は、短期的な収益の確保から決別し、生活者相手の資産運用という持久戦で、投資信託業界に地殻変動を起こそうとしている。結果が出るのは数十年先なのだろうが、その成り行きに注目していきたいと思う。おらが町投信に幸あれ!

深野 康彦 (ふかの・やすひこ)
ファイナンシャルリサーチ代表。クレジット会社勤務後、1989年4月にFP業界に入る。独立系FP会社2社を経て、2006年1月にファイナンシャルリサーチを設立、現在に至る。新聞、マネー誌や各種メールマガジンへの執筆・取材協力、テレビ・ラジオ番組などへの出演を通じて、投資の啓蒙や家計管理の重要性を説く。主な著書に「家計崩壊」「見えないインフレ時代を生きる知恵」「図解 金融機関にすすめられた商品の中身がわかる本」(ともに講談社)など。

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