




東京都中野区でバー&ギャラリー「ちめんかのや」を経営する村田茂廣さん(58歳)。元商社マンとして、海外での石油化学プラント事業に携わってきた。国の威信をかけた取り引きや何百億円という金額を扱う仕事だけに、やりがいも自負心もあった。しかし緊張の連続だった。「学生時代から会社員をやらないというのを目標としていたのに、気がつけば20年も勤めていた」こともあって、手がけていた新事業が軌道に乗ったのを見届けて会社を辞める決意をした。94年のことだった。そして約1年後、店をオープンした。
「会社を辞めたからには、自分も楽しめる仕事がしたかった。それが私の場合、お酒と絵画と音楽でした。そしてこの家。建築家の齋藤裕さんの設計によるもので、1988年に建築大賞を受賞しました。この空間を使ってと、考えたときに出たアイデアが、バーとギャラリーだったのです」と村田さん。
店名の「ちめんかのや」は齋藤裕さんがつけた作品の名前。漢字では「地面下の家」と書き、その名に違わぬ独特の地下空間が特徴だ。玄関から階段を下りた地下1階は、大きな井戸がある土壁のバー。アジアやアフリカのアンティーク家具や楽器などが置かれ、隠れ家的な空間をつくっている。2階部分はギャラリーとなっている。
主な収入源はバーでの飲食代とライブ、それに洋服の販売だ。
「バーは開店初年度から黒字続きですが、収益は徐々に下がっています。それが理由ではないのですが、最近は洋服の販売に力を入れています。他にも、家を建てたい人と建築家とをコーディネートしたり、造園業をやったりと、いろいろなことをやっています。私の場合、収益が目的で独立したわけではありませんが、ひとつがダメになってもそれをカバーするアイデアがないと、長く続けていくのは難しいかもしれませんね」と、幅広く活動する理由を話してくれた。
ギャラリーは「お酒を飲みに来た人が見てくれればいい」と収益は考えておらず、むしろ、「一般のギャラリーからは『収益になりにくいから』と、敬遠されてしまうような作品も展示していきたい」という。
独立・起業の目的は、収益だけではない。村田さんのように、やりたいこと、自分が楽しいと思うことを仕事にできるのは独立・起業の魅力だ。ただし、収益と楽しむことを両立するのは難しい。村田さんもこの点については、「独立の目的が収益なのか、楽しむことなのかは、はっきりさせたほうがいいと思います。とくに中高年の独立では、売上目標が達成しなくても大きく影響しない範囲で考えてみるとよいのではないでしょうか」と話す。
「失敗してもひとりで責任を取ればいいから気楽」という村田さん。逆に言えば、ひとりで責任を取れる範囲で独立するのが賢明といえるのだろう。
◇
村田さんのように自宅を飲食店にするのは、ケースとしてはまれといえるだろう。店舗は賃貸するのが一般的で、「東京都内で15坪程度の飲食店を開業する場合、保証金や敷金、内装・外装工事費、什器備品、開業経費などで、1500万〜2000万円くらいかかる」(「アントレ」編集長の藤井薫さん/リクルート)という。
村田さんの場合、自宅で開業という選択をしたため、「初期投資は500万円くらい」だったが、その反面、住宅街という立地のハンデがある。村田さん自身、「生活の糧にするのであれば、人通りの多い立地で店舗を借りるといった選択をしたと思う」と話している。

| 項目 | 金額(約) |
|---|---|
| 保証金・敷金 | 200万円 |
| 内装工事費 | 500万〜600万円 |
| 設計管理費 | 60万円 |
| 電気、水道、ガス等設備費 | 200万円 |
| 機器類、什器備品等 | 300万〜400万円 |
| 開業経費・予備費 | 100万〜200万円 |
| 合計 | 1360万〜1660万円 |

(更新日:2006年11月10日)
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