ところで、神田古書店街と司馬遼太郎の関係にも少し触れておこう。
司馬遼太郎は、「週刊朝日」 誌上で25年間、計1147回にわたって連載された「街道をゆく」のなかで、神田かいわいを歩いている。(単行本「街道をゆく〈36〉 本所深川散歩・神田界隈」朝日新聞社刊に収録)。このなかには、神田古書店街に関する記述もあり、懇意の古書店主を通じて資料や文献の手配を頼んでいたようだ。購入した文献や資料を運ぶのに軽トラックの荷台がいっぱいになったとか、小説の構想・執筆に取りかかるとその時代や人物に関するあらゆる資料を買っていくので古書店街の棚が空っぽになった、といったエピソードも残っている。
また、「街道をゆく〈36〉 本所深川散歩・神田界隈」の執筆に際しては、神田・神保町のかつての姿を知る人物を集めて、取材のための座談会を催したそうだ。その会場となったのが、神保町・吉野鮨(ずし)。
吉野鮨の店主、糸島正之さんは、「10年以上前のことだから、ほとんど覚えてないなあ」と言いながら、当時の司馬さんの印象を「当時は大作家だとは知らなかったので白髪のおじいさんが来たなあ、というくらい。ただ、こちらにお辞儀をしてから2階の座敷に上がっていかれたのは印象に残っている」と話してくれた。
糸島さんいわく、「当時の座談会に参加していた古書店街の名物オヤジたちも亡くなってしまった方が多い」という。没後10年以上が経過し、司馬遼太郎が神田古書店街に残した足跡は、年々、薄れつつあるようだ。しかし、その作品は色あせることなく、将来まで読み継がれていくことだろう。

神保町 吉野鮨
創業50年以上の寿司(すし)店。産地にこだわった上質で新鮮なネタを使った寿司が自慢。予算はお好みで1万円くらい。本の街・神保町らしく、出版関係者、作家の常連客が多い。

(更新日:2007年1月15日)
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