2004年9月、多くの駄菓子ファンに愛された「日暮里駄菓子商店街」は、駅前の再開発のため取り壊され、姿を消した。
だが商店街がなくなった後も、日暮里の駄菓子文化を守るため、お店を続ける人たちがいる。
今回は「村山商店」の村山正幸さん、「大屋商店」の大屋清さん・律子さんご夫妻に、かつての商店街の思い出と駄菓子に対する思いをうかがった。
日暮里駅から徒歩5分。「日暮里ビル」の1階に、村山商店の仮店舗はある。
建物こそ真新しいビルではあるが、並べられた駄菓子の数々は、訪れる人たちを思い出の世界へと導いてくれる。
「もうかれこれ50年、駄菓子卸商をやっています」
1950(昭和25)年。当時まだ夜学の高校生だった村山さんは、兄が独立するのを機に駄菓子屋を営んでいた両親の手伝いでこの仕事を始めた。
それから50年間、一貫してこの土地、この仕事にこだわり続け、駄菓子商店街の昔と今を見守り続けてきた。
「最盛期の商店街は本当に活気があったんです」
駄菓子が最も売れていた昭和30〜40年代、今とは比べものにならないほど、たくさんの人がこの街を訪れていた。朝6時、村山さんがお店に行くと、そこにはもう黒山の人だかりがあったという。
謝恩セールでサービス券を配ったときのこと。200円で1枚、枚数に応じて多くの景品を用意したが、最も高価なものは千枚でプレゼントする温泉旅行だった。出発当日、用意したバスは50人乗り4台、大旅行になった。
「当時のお金で200円だから、相当なものでした。それだけ、多くの方にご利用いただいてたんですね」
まだ貧しい時代。荷運びは自転車で行っていた。また、今は懐かしいモペットの「ダイヤモンドフリー」に乗って仕事をすることもあった。
「でも後部座席にたくさんの荷物を載せると、前輪が浮き上がってしまうんです。だから荷物ごとひっくり返っちゃうんじゃあないかと、ヒヤヒヤしたものですよ」
そのころの村山商店は、小売の駄菓子屋さんに商品を卸すのが主な仕事だった。日暮里近辺や近郊の街から集まった駄菓子屋さんたちは、たくさんの荷物を抱えて、それぞれのお店へと帰って行った。中には昼間に商品が売り切れてしまい、1日に2度やってくる人もいた。
しかし幾星霜(いくせいそう)、時代は変わり、徐々に駄菓子が売れなくなり、商店街も次第に活気を失っていった。
最盛期には100軒以上あったお店も、1軒、また1軒と消えていった。再開発のため商店街が取り壊される時、残っていたお店は10軒にも満たなかった。
そして今、商店街は仮店舗の日暮里ビルでお店を開いている3軒と、別の場所で営業を続ける1軒のみとなってしまった。
「確かに昔に比べお客さんも減ってしまった。でも小売りの駄菓子屋さんの代わりに、一般の方や町内会の人、塾の先生などが来てくれるようになった。これ、懐かしい!と喜んでくれるのを見ると、本当にお店を続けてよかったと思えるんです。これからも、駄菓子を求める人たちのために頑張っていきたい」
村山さんは笑顔でそう言い、お客さんの元へ戻っていった。
「昔はこのあたりも殺風景で、本当に何もなかったんです」
村山商店と同じビル、2階に仮店舗をかまえる大屋商店の店主・大屋清さんは、当時の商店街の様子をこう語ってくれた。
駄菓子商店街は戦後の闇市から発展した。バラックや平屋の建物が並び、舗装されていない道路は人々の雑踏で土煙が舞っていた。
時が流れ、道路が舗装され、町並みが少しずつ変わっていっても、平屋の風景は当時の趣を残したまま、訪れる人たちを優しく迎え入れてくれた。
「もちろん頑丈とはいえない平屋建ての店だと、苦労も多かったんです」
特に雨が降ると大変だった。表に出した商品はすぐに取り込まなければいけなかった。
「でもね、風情があった。今は仮店舗とはいえ立派なビルの中で営業しているから、何かと楽なんです。ただ、平屋の商店街には趣があった。なんともいえないあたたかさがあったんです」
今でもなじみのお客さんが足しげくお店にやってきては、当時の思い出話に花を咲かせるという。
ただ、常連さんの中には、もう駄菓子商店街はなくなってしまったとあきらめていた人も多いそうだ。
「建物こそ変わってしまったが、今でも私たちはこの土地で頑張っている。だからまた、気楽に遊びにきてほしい」
45年間、夫とともにお店を守ってきた律子さんはそう願う。
2008年4月には再開発後の駅前ビル「サンマークシティ日暮里」にお店を移す予定だ。「日暮里駄菓子商店街」は再び、この地から新たな歴史を刻みはじめる。
最後に大屋さんはこう語ってくれた。
「これからも頑張ってお店を続けていきたい。日暮里の駄菓子文化を守り、次の世代に伝えていきたい」
たとえ風景が変わっても、駄菓子屋と、駄菓子を取り巻く人々の気持ちは変わらない。
日暮里を訪れる際はぜひ、商店街に立ち寄ってみよう。そこにはあの日と変わらない笑顔と、駄菓子たちが待っているはずだ。
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