団塊世代が、60歳定年を迎えはじめる2007年。戦後日本の仕事観や家族観をリードした彼らが自由を手にすることで、「第二の人生」がより個性的になることが予想されます。一方で、年金、医療、介護などの負担増という現実の中、将来の暮らしへの不安も高まっています。変革の時を迎える経済の今後をどう読み、自分の人生をどう描くのか。どらく編集委員の森永卓郎さんに、生活経済ジャーナリストの和泉昭子さんがうかがいました。

和泉昭子いよいよ2007年を迎えて、団塊世代の方たちが定年を迎えます。森永さんはこれからの10年を、経済の面からどのような時代になると見ていらっしゃいますか。
森永卓郎一言でいえば、爆発的な多様化が進む時代になると思います。多様化という言葉は昔から使われていますが、これまでのそれは見せかけだけ。マイルドセブンとマイルドセブン・ライトぐらいの違いで、結局は大量生産・大量消費社会だったわけです。いま起こりつつあることは、もっと本質的で劇的な変化です。
和泉多様化というと、普通は枝分かれして細分されていくイメージですが、そうではないから「爆発的」と力強くおっしゃっているわけですね。
森永いま所得格差の拡大が社会問題になっていますが、もうひとつ重要なのは、30代前半の過半数が未婚という若年層の劇的なシングル化です。これはまさに団塊世代が作ってきた「夫婦と子供二人」という標準家族と、それに伴う規格化されたライフスタイルが消失するという意味で、非常に重要です。家族のライフスタイルが規格化していれば、企業も効率的な大量生産ができます。それが日本の大企業型経営を支えていたベースだったんですよ。でもそこがシングルになると、いろいろなことが自由になる。私は、今後は団塊世代でも、定年を契機に同様な変化が起こってくると思います。
和泉そういった「自分がもっと幸せになろう」という意識は、私たちのようなシングル女性にはすでに普通のものです。団塊世代には、家庭があり、仕事のしがらみもありで、それが出来なかったわけですね。そういえば森永さんは以前、「子供と専業主婦と住宅ローンを持つと、『不真面目な生き方』ができなくなる」とおっしゃっていました。
森永そうそう。だからみんな真面目に働いてきたのであって、団塊世代がもともと均質な人たちだったわけではないんです。でも、会社から解放されれば、もともと個性的だった彼らがいろんな生き方をしようとする、できるようになると思いますね。

和泉団塊世代を取り巻く消費の変化ということでは、どのように見ていますか。
森永いま消費マーケットでは、新商品の成功確率の低下、成功時のマーケットの小規模化、製品寿命の短命化という3つの変化が同時進行で起こっています。ここでも圧倒的な多様化が見られるわけですね。さらにもうひとつは、インターネットの本当の実力ということが出てきています。ネットというのはみんなが同じものを買う場ではなくて、「ヘンな人」同士を結びつける力に長(た)けているんですよ。
和泉コレクターとしての森永さんのユニークさは有名ですからね(笑)。
森永私はお茶の空き缶を集めていますが、昔は本当に孤独で(笑)。だれ一人仲間がいませんでした。でも、ネットで自分のコレクションを発表すると、全国に仲間が5人いることが分かったんです。で、今度コレクター同士集まって、オフ会をしようということになりましてね、こういうことって今までの常識ではありえないことでしょう。これって、遊びと学びと稼ぎの融合が同時進行で起こっているということだと思います。いろんな仕事をしている中で、「何をやっても食えるや」という生活実感がとってもあるんですよ。牛丼評論家でもいいし、秋葉原評論家でもいい。そういう小さな規模でも、数十人の仲間がいればマーケットが成立する時代になっています。

和泉なるほど。そうしますと「団塊ビジネス」に取り組んでいる多くの企業は、戦略を見直す必要があるようです。クルーズ世界一周とか、世界遺産を巡ろうとか、提案にちょっと画一的な傾向があるでしょう。もちろん今まで仕事ばかりで、名所巡りからはじめたいという方もいらっしゃるでしょうが、本質的な志向はもっと自由なんですね。
森永その前にまず奥さんがだんなさんと一緒に旅行に行きたいと思っているかどうかはおいときまして(笑)、旅をするにしても、例えばアマゾンの秘境とかマニアックになっていますよね。
和泉そうなってきた時、経済の主役は大企業から、中小企業や個と個を結ぶインターネットに移っていくということでしょうか。
森永ええ、もちろん国際競争はあるし、今後もみんなが欲しがる商品、安ければいいという商品というのもかなりの部分であると思いますよ。そこではこれまで以上に厳しい大企業間のコスト競争や価格競争が待っています。一方で、いま日本でもっとも付加価値の高いアパレル商品は、コスプレ用の衣装なんです。一着10万とか20万がざらで、それを一人とか二人で作って売っているわけです。それを買う人がいて、またそのお金が同人ゲームへ、フィギュアへと秋葉原という街の中で循環経済しています。それと同じような「本人は本気だけれど、周りから見るとヘン」という新しい経済が、団塊世代のもつクリエイティビティーによって起こってくると思います。
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