定年後の新しい生活環境に向けては、早めに方針を決めて今から準備をするばかりではなく、これからの暮らしの実感の中から、夫婦の新しい生き方を見つけていくことが大事な場合もあります。セカンドライフの住まいを考える時、そこに大きく関わる夫婦のあり方や、子供との関係などの変化が訪れるのはまだ少し先のはず。老後を見すえた定年後の住まい方について、ファイナンシャルプランナーの深田晶恵さんにうかがいました。
―― 定年を機に、住み替えやリフォームなど、セカンドライフの住まいのあり方を考え始る団塊世代のかたも多いと思います。その際に、大事なポイントは何でしょう
深田晶恵
定年を境にお金の面ではさまざまな変化が訪れたとしても、住まい方は急に大きく変わるわけではありません。むしろ定年後の数年は、一日の長い時間を夫婦二人で過ごすという、新しい生活のテンポを馴染ませていく時期でしょう。「海外でロングステイをしたい」といったはっきりとした計画がある場合を別とすれば、住まいを見直すタイミングを夫の退職に合わせる必要はないと私は思います。
団塊世代といえば、お子さんはまだ結婚をしていないのが多数派でしょうし、していたとしても子供はこれからという家庭が多いと思います。ご自身の身体だって、まだまだ元気で現役だという世代ですよね。子供の住まい方や、自分たちの健康状態などが変わってくるのは60代後半から70歳あたり。これから10年ぐらいかけて、急がずに夫婦の住まい方を見つけても遅くないと思います。
――「準備をあまり急がない」という点は、これまで取りあげた年金や医療・介護などとは心構えが少し違うようです。ただお話とは反対の場合、つまりお子さんがすでに家庭をもっていると、退職金でマイホームの資金援助をしてやりたいという「急ぎ」の気持ちが生まれそうですね
深田自分たちの住まい方をよく考える前に、子供たちの住まい方の変化が先にくることは十分ありえます。そのような場合にマイホームの資金援助をするなら、金額は慎重に決めていただきたいと思います。その理由のひとつは、これからの自分たちにも予想していなかった出費があるかもしれないということ。定年後の新生活をスタートさせて間もないというのに、将来に備えるお金を失ってしまうのはリスクがあります。
もうひとつの理由は、子供たち世代の住まい方を、「家賃を払い続けるのはもったいない」といった、自分たちが経験されてきた尺度にあてはめないということです。団塊世代の皆さんは、例えば団地や借家暮らしから頑張ってマンションを買って、土地の値上がりによってもっと広い場所に移れたり、一戸建てを買ったりという、かつてのステップアップ型の住まい方を経験された世代だと思います。しかし現在の住宅事情は多様化していますし、若い頃のライフスタイルに合わせて購入したマンションが、世帯の変化に対応しながら長く上手に使っていけるとも限りません。
―― では定年後の数年は様子を見たほうがよいということを踏まえて、今回は「住み慣れた家で暮らす」「二世帯に建て替える」「都心のマンションなどに住み替える」といった3つのケースでお話をうかがいます
深田私が相談を受けるケースでもっとも多いのは、一番目の「住み慣れた家で暮らす」です。現在の住まいに住み続けるとすると、今はよくても5年、10年と経てばリフォームをしなくてはいけないとか、マンションの場合は大規模修繕の費用として何百万円と拠出しなければいけない場合もあります。
これは定年後の住まいの準備全般にいえることですが、リフォームの計画は今すぐ100点を目指す必要はありません。水回りなどの本格的なリフォームや、住宅のバリアフリー化に差し迫られるのは、多くの場合、リタイア直後ではなく70歳前後です。退職金が入ったのを機に一度に済ませようとして、仕事ぶりのよく分からない業者にいきなり大きな工事を頼むよりも、今後必要に応じてリフォームを重ねていくほうがよいでしょう。
リフォーム資金には金利の負担が増えるローンは組まず、手持ちの資金で用意するのが基本です。将来に備えて、500万円くらいの資金を用意しておくことをお勧めします。
―― 高齢になってから数百万円をかけて古い家をリフォームするくらいなら、「二世帯に建て替えて一緒に暮らそう」と提案する子供夫婦もいそうですが
深田そのような形でなんとなく主導権を子供にとられてしまうのは、夫婦のどちらかが亡くなって、一人になった時によくあるケースなんですね。元気な60代のうちは想像しにくいのですが、夫婦のどちらかが亡くなり、身体も弱くなれば、立場も弱くなります。そうなった時に自分の発言権、自分の生き方を確保するためにも、自分の自由になるお金をもっておくということが大切だと思います。
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