20年以上連れ添った夫婦が、定年退職や子の独立を機に別れを選択する「熟年離婚」。4月から年金分割が可能になったこともあり、脚光を浴びました。だからと言って簡単にできるものではありません。熟年だからこそ、よほどの覚悟と入念な準備が必要です。
厚生労働省の人口動態統計の推計では、06年の離婚件数は25万8千件。02年以降減少傾向だが、年金分割をにらんだ熟年層が、今年まで離婚を控えたのが一因とみられてきた。離婚カウンセラーの岡野あつこさんは、「相談は増え続けているし、調停準備に入っている人も多い」と話す。
離婚を切り出すのは、ほとんどが妻側。子育てに一段落した専業主婦が、「育児をしない」「家を顧みない」といった長年積み重なった不満を、爆発させるケースが典型的という。
ただ、「熟年離婚はもめることが多い」と岡野さん。夫婦間で合意すれば「協議離婚」となるが、不調だと家庭裁判所が介入する「調停」に。それでも合意できないと裁判になる。
熟年の場合、家や貯蓄など資産がある分、条件が折り合わず裁判に至ることが珍しくない。「多くの夫にとって離婚は予想外なだけに、。全力で反論してくる。社会経験や人脈を駆使する夫に対抗するには、かなりの精神力とエネルギーが必要です」
離婚後の生活も一変する。専業主婦が突然社会に出て自活を目指しても、現実は厳しい。一人の寂しさに耐えられない人もいる。子どもを頼ろうにも、家庭を持っていると難しい。想定されることを、事前にシミュレーションすることが大切だと岡野さん=図。
では、どうやって決断すればいいのだろうか。「熟年離婚 迷ったらまっ先に読む本」(日本実業出版社)を書いた弁護士の一澤昌子さんは、結婚生活の整理から始めるよう勧める。まず、出会いや交際期間、新婚生活、子どもの誕生から夫の昇進、子どもの独立、退職後の生活まで、様子や気持ちを書き出し、結婚経過表を作る。離婚したいと思った時期やその理由が見えてくるという。
次に今の家計状況を確認する。収入と支出、自由にできるお金、資産をまとめる。それを元に、離婚後住む場所や仕事の有無などを書き出し、支出を試算。年金や離婚後の財産分与、慰謝料を見積もる。気持ちと収支のバランスを見比べれば、冷静に判断する材料になる。
相談者の中には、夫の収入を知らない人が意外と多く、驚くという。年金分割できるとはいえ、それだけで暮らせる額ではない。就職が難しい高齢者は、財産分与や慰謝料が重要な生活基盤になる。「熟年だからこそ、周到な準備が必要」と一澤さんは強調する。
勝手に自宅を処分されたり、資産を隠されたりする危険性もあるため、仮差し押さえなどの「保全処分」を講じなければならないこともある。「自治体の法律相談など、一度専門家に相談してみては。一人で考えるより、気持ちを言葉で表すだけでも頭を整理できるはずです」
30年近く連れ添った夫と10年以上前から離婚を考え続けている。子どもがいないので、「困った息子」だと思ってやりすごしてきた。周りで2、3人離婚しているが、実家が裕福な家の人たち。私は仕事があるので経済的には困らないが、相手の両親がかわいがってくれるので申し訳ない気持ちがある。共通の友人への説明など、結婚と比べて面倒なことも多い。逆に仕事のおかげで気を紛らわすことができた。だが、元気でいられる時期は限られているので、後悔しないかとも思い始めている。
(神戸市 会社員 53歳)
昨年離婚した。調停離婚だが夫が応じず、離婚成立まで5カ月かかった。国民年金が6万円弱しかない私にとって年金分割は魅力的だったし、調停員は慰謝料の要求を勧めたが、「離婚するなら一切やらない」という言葉に、迷わず何も要求せず成立にこぎつけた。今はパートに出て幸せに過ごしている。予想以上に減りの早い預金通帳を見て不安になり、誰とも話すことのない寂しさを感じることもあるが、後悔は全くしていない。ただ、自分は平穏を得た半面、子どもには申し訳ない思いでいっぱいだ。
(福岡市 無職 59歳)
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(更新日:2007年06月08日)
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