遺産は、残された人にプラスとなるものばかりとは限りません。預貯金や不動産ならいいけど、多額の借金を残して配偶者や親族が亡くなったら――。借金も「財産」のうち。そのままだと遺族が相続することになります。では、どうすればいいのでしょうか。
相続すると、プラスの財産も借金のようなマイナスの財産もともに引き継ぐ。預貯金だけ相続して借金はいらない、などは許されない。ただ、全く何も相続しないという選択はできる。
相続の際に、遺族の選択肢は三つ。まずは「単純承認」。プラスもマイナスも普通に相続することだ。次が「相続放棄」。借金を相続せずに済む一方、預貯金なども一切相続できない。最後が「限定承認」で、残った財産の範囲内だけで借金も相続し、返済する。
放棄や限定承認は、家庭裁判所に手続きする。放棄の申し出の受理数は05年度で約15万件。10年前と比べ倍以上に増えている。
放棄は相続する立場の人が自分の判断でできる。放棄すると、その分の財産は別の親族に移るから、誰かにプラスの財産を集中させる目的でも使われる。
例えば図の家族。遺言がないと法的には妻が財産の半分、子2人が残りを半分ずつ相続する。借金も同じ割合で相続し、割合の変更は債権者の合意が要る。
誰かが放棄すると財産はどうなるか。仮に妻も子2人も放棄すると、存命ならば故人の親に、親も放棄すればきょうだいに。おいなどに移ることもある。
疎遠でも必ず放棄したと伝えないと、特に借金の方が多い場合には、相手からみれば知らないうちに借金を押しつけられた、ということに。「放棄を伝えないと不幸な争いになりかねない」と山枡幸文弁護士。連絡をとって順に放棄すれば済むが、放棄の期限は自分が相続する立場になったと知ってから原則3カ月だ。
一方、限定承認は相続する立場の全員(放棄した人は除く)が一致して手続きする。財産以上の借金を負うことはないから、後で遺族の知らない借金が出てきそうで怖いときなどには便利そうだ。限定承認し、結果的に借金の方が少なければ、残りの財産は引き継げる。ただ、債権者への公告など手間と時間がかかる。
中島吉央税理士は「税法上の落とし穴があり、慎重に考えて」と助言する。限定承認では、故人が財産を時価で遺族に譲渡したとみなす。財産に購入時より時価が高くなっている土地などがあると、故人に譲渡所得税が課され、その税金は遺族が支払う。財産の方が多かった場合、所得税も負担するため、単純な相続より損になる。
マイナスの財産は借金以外にも。「借金は相続時に分かりやすいが、連帯保証は要注意」と相続手続支援センターの半田貢代表。故人が借金の連帯保証人ならそれも相続される。「知人の保証人だった父の死後十数年たち、知人の事業が倒産、子に債務ができた例もあります」
10年以上前に夫の父が亡くなり、夫のきょうだいで遺産分けをすることになった。夫ときょうだいは土地のみ、長兄が家や土地を相続することになったが、きょうだいがみな長兄を信じて実印を渡してしまい、義母の遺産は長兄だけが相続するという書類を作られてしまった。私たちにも3人の子どもがおり、土地と、できればお金も残したいと思っている。今は仲が良くても、遺産に関しては醜い争いがおきかねない。それだけは絶対に避けたいと、先に分けておくなどの方法を今から考えている。
(神奈川県 女性 54歳)
数年前に姉が事故で突然亡くなった。子どもはなく、コツコツためた預貯金が残った。私たちは会ったこともないが、父には前妻との子が2人いて、ともに死亡していたので、その子どもたちが相続権を得ることになった。姉の夫である義兄は相続放棄を頼んだが、「もらえる物はもらいたい」と言い張られ、困り果てた義兄を見て、私ときょうだいは相続を辞退して遺産分割に合意。その結果、他人同然のおいやめいたちに数百万円が支払われた。法律だから仕方ないとはいえ、釈然としない思いが残った。
(埼玉県 女性 65歳)
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(更新日:2007年08月24日)
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