高齢期の住まいの選択肢は、特別養護老人ホームなどの施設だけではありません。将来の介護を見越しつつ、多様な生活スタイルに合わせたサービスが受けられる賃貸住宅も登場しています。どんなものか、最新の高齢者向け賃貸住宅を訪ね、考えてみました。
神奈川県平塚市に10月にオープンする予定の「高齢者専用賃貸住宅」(高専賃)=図=は、タイル張りの5階建てでマンションのようだ。1階に診療所と薬局、2階に訪問介護ステーションが入る。「将来は心配だけど、まだ元気だから自由に暮らせる方がいい」という人は自立フロアに入居し、介護が必要になった時には自立フロアで訪問介護を受けることも、介護フロアに移ることもできる。自立フロアは普通のマンションと同様に、外泊や食事は自由だ。
高専賃は、有料老人ホームのように数百万〜数千万円の入居一時金を支払う必要はないが、事業者によってサービスにばらつきがある。ここの入居一時金は105万円で、家賃と管理費は月14万円から。食費を含めると月20万〜25万円になり、光熱費や介護保険の自己負担分は別にかかる。事業主の「ユーミーケア」(神奈川県藤沢市)は「一つの建物の中に、住居を中心に医療と介護のサービスを融合させるニーズはある」とみて、手厚いサービスを付けて差をつける
「街の中心部で暮らしたい」という高齢者の要望にこたえようという賃貸住宅もある。岐阜県住宅供給公社は、JR岐阜駅前の再開発ビルの中に「高齢者向け優良賃貸住宅」をつくった。70歳代を中心に108戸に2倍近い申し込みがあり、今月入居が始まった。
入る時に自立した生活ができれば、その後も訪問介護を受けながら暮らし続けられる。部屋は44〜57平方メートルで家賃9万5千〜13万5千円。相場より割高だというが、公社の高橋聡・企画部長は「岐阜では高齢者の住まいの選択肢が少なかった。受け皿として値打ちはあると思う」と話す。
住み替え後の暮らしはどうか。横浜市の港北ニュータウンにあるUR都市機構(旧都市公団)のシニア賃貸住宅では入居時に、将来も住み続けてここで訪問介護を受けるか、施設に移るかを決めて契約し、家賃を前払いする。98年に入居が始まり、現在約190人が暮らす。これまでに提携先の介護付き有料老人ホームに移ったのは16人だけ。現在の入居者の3割が訪問介護を受けているという。
元気なうちに住み替えて介護が必要になったあとも住み続けられる賃貸も多い。ただ、高齢者だけが集まって住むことに抵抗感を持つ場合や、周囲への気遣いが負担になる場合もある。「老後の居場所」(創元社)を書いた藤ケ谷明子さんは「元気なうちでも高齢期の引っ越しは大変。住み替えではなく、自宅のまま緊急対応や介護など必要なサービスを選んで使うという選択肢もある。今の住まいで何が不安なのか、なぜ駄目なのかを冷静に考えて」と助言する。
約2年前、一人暮らしの母(74)の不安を少しでも解消できればと高齢者向け優良賃貸住宅に契約した。市から補助金が出るし、設備もよかった。だが、当初入居者に開放されるはずだった共用スペースが閉鎖され、座って世間話をする場所もなかった。母は1年後、認知症の症状が現れ、今は24時間介護付きの別の施設に入所している。今思うとハード面よりソフト面が大事だった。困った時に対応してもらえるか、入居者同士が交流できるつくりになっているか、契約時に確認した方がいい。
(富山県 主婦 46歳)
夫を亡くして3年、老朽化した一戸建てで一人暮らしだ。難病を患い在宅介護を受けている。歩きづらくなり、あと何年今の生活を続けられるか悩んでいる。子どもや孫と住んでみたいが、介護させる身としては言いづらい。友達は「何と言っても一人が一番」という。細々とした年金暮らしの身にとって、安心できるすみかはあるのだろうか。こっそり資料を集め、温泉付き老人ホームの広告にため息が出る。一生懸命生きてきたのだから、最期の住まいは居心地のいいところであってほしい。
(神戸市 女性 67歳)
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(更新日:2007年09月21日)
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