同名タイトルの初の映画公開から3日後、時をおかずしてリリースされた。英国では音楽チャートに初登場1位、21週連続でその座を守った。それを破ったのは他ならぬビートルズ自身、4枚目のアルバム「ビートルズ・フォー・セール(BEATLES FOR SALE)」だった。
アルバム・映画のタイトルは、リンゴが名付け親だ。撮影がほぼ終了した4月16日、「It's been a hard day night(ああっ、しんどい一日だったぜ)」とひとこと言ったことが、ジョンとポールの創作意欲をかき立てた。その日のうちにあっという間に書き上げたという。このアルバムではじめて、アルバム全曲がオリジナルになった。録音仕様をすべて4トラックにしたのもこのアルバムからだった。LPレコードではA面が映画の挿入曲で、B面はその他でまとめた。
当時、ギター少年のだれもがまねしたくなったのが、「ア・ハード・デイズ・ナイト」の初っ端なの、弦を一気に引き下ろすコード。いまのような音符の一音一音が明記された完全コピー譜はなく、少年たちは音を聞き分ける耳の良さを競ったものだ。それは、G7(ソ・シ・レ・ファ)に9(ナインス)のラと、sus(サス)4のドを加えた(と思われる)ビミョーな、でも、これからのドラマを予感させる音色。12弦ギターという楽器の複雑さがさらに増して、ジョージのピッキングが、耳を引きちぎる。
【A面】
A Hard Day's Night(ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!) I Should Have Known Better(恋する二人) If I Fell(恋におちたら) I'm Happy Just To Dance With You(すてきなダンス) And I Love Her(アンド・アイ・ラヴ・ハー) Tell Me Why(テル・ミー・ホワイ) Can't Buy Me Love(キャント・バイ・ミー・ラヴ)
【B面】
Any Time At All(エニイ・タイム・アット・オール) I'll Cry Instead(ぼくが泣く) Things We Said Today(今日の誓い) When I Get Home(家に帰れば) You Can't Do That(ユー・キャント・ドゥ・ザット) I'll Be Back(アイル・ビー・バック)
1965年の秋、およそ1カ月の充分な休息をとったうえで制作された6枚目のアルバム。ポピュラー音楽のLPレコードといえば、全般にEPシングルを寄せ集めた感が否めなかったが、これは音のメッセージ性をもった初のコンセプトアルバムといっても過言ではない。この年の夏に公開された映画「HELP!(4人はアイドル)」の足かけ4カ月にわたる撮影・レコーディングと度重なるラジオ出演、それに続くヨーロッパ・米国ツアーという過密スケジュールから抜け出した余裕が、曲想をふくらませたのだろう。
メロディー重視でアコースティック系の曲が多い中、出色は、ホンキ−な鍵盤ではじまるゴキゲン「ザ・ワード(愛のことば)」。公民権運動やベトナム反戦の精神的支柱になった1曲だ。シンコペーション(ざっくりいえば、テンポ・強弱を作為的にずらすこと)するメロディーを支えるのは、リンゴのバスドラと、まさしく香辛料たらんとするマラカスの刻み、そして、ポールが弾くベースランニング、そして、ジョンとポールのダルでスムースな歌声。このノリが、後に彼らのトレードマークになる「ラブ&ピース」をかたちづくってゆく。
このほか、ポールがリードボーカルをとり、物質欲がまかり通る倫理観を嗤(わら)うモータウン系リズム&ブルース風の「Drive My Car(ドライヴ・マイ・カー)」、ジョージが持ち込んだインドの民族楽器シタールが効果的な「Norwegian Wood(ノーウェジアン・ウッド)」、そして、ジョンの極限の愛「In My Life(イン・マイ・ライフ)」と、名曲がそろう。
【A面】
Drive My Car(ドライヴ・マイ・カー) Norwegian Wood(This Bird Has Flown)(ノーウェジアン・ウッド[ノルウェーの森]) You Won't See Me(ユー・ウォント・シー・ミー) Nowhere Man(ひとりぼっちのあいつ) Think For Yourself(嘘つき女) The Word(愛のことば) Michelle(ミッシェル)
【B面】
What Goes On(消えた恋) Girl(ガール) I'm Looking Through You(君はいずこへ) In My Life(イン・マイ・ライフ) Wait(ウェイト) If I Needed Someone(恋をするなら) Run For Your Life(浮気娘)

前作の「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND)」などのカラフルなジャケットから一転、リチャード・ハミルトンがデザインし、通称「ホワイトアルバム」と呼ばれる9枚目のアルバム。自分たちのやりたいことをするために作った音楽総合会社である「アップル」からリリースしたビートルズはじめてのアルバム、はじめての2枚組LPレコードだった。ちなみに、初シングルは、ジョンとシンシアとの離婚で独りぽっちになってしまうジュリアン・レノンを励ますために即興でつくった「ヘイ・ジュード(Hey jude)」(68年8月26日発売)である。
アルバムタイトルは、4人が集まってひとつになるという「ビートルズ」そのものだったが、全30曲の中身をひもとくと、それぞれの作者がリーダーとなり、メンバーがたとえそろわなくても制作を進めていった。制作中にジョージやリンゴが「一時脱退」したり、個人的な仕事や事情があったりしたわけだが、後にジョン・レノンは、このアルバムを「ソロアルバムの寄せ集め作品集」と言い切った。
しかし、おさめられた曲はどれも曲想ゆたかで、個性的であり、そのイメージの先には自分たちのルーツに回帰しようという、まさに「ゲット・バック」があった。
「The Continuing Story Of Bangalow Bill(コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル)」から「While My Guitar Gently Weeps(ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス)」に入る時の「間」に、ひとはものがたりを感じる。「Everybody's Got Something To Hide Except Me And My Monkey(エヴリボディーズ・ゴット・サムシング・トゥ・ハイド・エクセプト・ミー・アンド・マイ・モンキー)」の対句の詩〈どんどん深いところへ行くほど 高く飛ぶ どんどん高く飛ぶほど どんどん深くなる だから おいで〉に、エネルギーがほとばしる。
ディスク1
【A面】
Back In The U.S.S.R.(バック・イン・ザ・U.S.S.R.) Dear Prudence(ディア・プルーデンス) Glass Onion(グラス・オニオン) Ob-La-Di, Ob-La-Da(オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ) Wild Honey Pie(ワイルド・ハニー・パイ) The Continuing Story Of Bangalow Bill(コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル) While My Guitar Gently Weeps(ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス) Happiness Is A Warm Gun(ハッピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン)
【B面】
Martha My Dear(マーサ・マイ・ディア) I'm So Tired(アイム・ソー・タイアード) Blackbird(ブラックバード) Piggies(ピッギーズ) Rocky Raccoon(ロッキー・ラックーン) Don't Pass Me By(ドント・パス・ミー・バイ) Why Don't We Do It In The Road(ホワイ・ドント・ウィ・ドゥ・イット・イン・ザ・ロード) I Will(アイ・ウィル) Julia(ジュリア)
ディスク2
【A面】
Birthday(バースデイ) Yer Blues(ヤー・ブルース) Mother Nature's Son(マザー・ネイチャーズ・サン) Everybody's Got Something To Hide Except Me And My Monkey(エヴリボディーズ・ゴット・サムシング・トゥ・ハイド・エクセプト・ミー・アンド・マイ・モンキー) Sexy Sadie(セクシー・セディ) Helter Skelter(ヘルター・スケルター) Long Long Long(ロング・ロング・ロング)
【B面】
Revolution 1(レボリューション1) Honey Pie(ハニー・パイ) Savoy Truffle(サボイ・トラッフル) Cry Baby Cry(クライ・ベイビー・クライ) Revolution 9(レボリューション9) Good Night(グッド・ナイト)
(注)ここで取り上げているのは、すべて英国版オリジナルアルバムです。
参考文献:「TELL ME WHY」(Tim Riley)、各ライナーノーツ
プロフィール
小野 高道(おの・たかみち)
「どらく」編集長。1958年、東京生まれ。獅子座のB型。1984年、朝日新聞社に入社し、東京本社社会部、「be」副編集長などをへて、現職。じつはクラシックもジャズも、リズム&ブルースも、好き。ことばとは裏腹に「優柔不断」が信条?
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