
ジョン・レノンが生きていれば、ことし66歳。リアルタイムで4人を知る世代から、リバイバルヒットした数々の名曲でとりこになった30代、40代もいる。そんなビートルズ世代が集うのが、「どらく」だ。1966年、世界を席巻したザ・ビートルズが来日し、厳戒態勢の中、計約5万人が東京・日本武道館で公演を見た。あのときの目撃者、「どらく」ピープルたちは、何をいま思うのか――。公演・滞在こぼれ話などを間にはさみながら、7回にわたって報告します。
「ビートルズの目撃者」第2回は、1966年6月30日から7月2日にかけて東京・日本武道館で開かれた日本公演について、こぼれ話と演奏曲目をご紹介します。次回(第3回)は、志村けんさんに引き続き、日本武道館でこのライブを観た高校生のひとり、ギタリストの仲井戸麗市(なかいど・れいち)さんに登場してもらいます。
日本武道館の公演は6月30日は夜のみ、7月1、2日は昼夜の各2回公演だった。司会を勤めたのはタレントのE・H・エリック。前座として尾藤イサオ、内田裕也、 ジャッキー吉川とブルーコメッツ、ザ・ドリフターズなどが舞台に上がった。ドリフターズが登場したとき、会場を埋めた女の子たちが、彼らをビートルズの4人と間違えて、その前座演奏の終了まで金切り声を上げ続けたという。
いまから40年前、演奏される音楽が大きな会場全体に均一に聴こえる音響システム(PAシステム)はまだ完成されていなかった。さらに、歌声の音程をこまめにチェックするために歌手(演奏者)に向かい合って置かれる専用スピーカー(モニタースピーカー)もなかった。このため、本人たちは、舞台の上に備え付けた自分たちのアンプとスピーカーを基本にした「ちゃち」なシステムで演奏することを強いられた(演奏曲目は別項を参照)
東京ドーム、横浜アリーナなど大型施設などでロックコンサートは頻繁に開かれているが、その先鞭(せんべん)をつけたのが、このビートルズの日本武道館公演だろう。
佐藤栄作首相や政治家・評論家・文化人らが「日本の象徴ともいえる神聖な日本武道館を汚すのか」「長髪でうるさいだけの外国人のロックバンドが、日本武道館で演奏することはけしからん」などと発言するなど、日本武道館のコンサート使用をめぐっては国会でも議論になった。新聞・テレビなどマスメディアは、ビートルズというロックバンドや来日公演を社会現象としてとらえており、純粋な音楽批評などはほとんど見られなかった。彼ら4人が東京滞在中、延べ8千人以上の警察官が警備に動員された。
こうした取り上げられ方に対し、ポールは「日本の舞踊団がイギリス王立の会場で演奏しても、イギリス人は伝統を汚されたとは思わない」などと反論。ジョンも「戦うよりも音楽を演奏する方が平和。別にボクシング場でもどこでも、僕らが演奏する場所は構わないよ」とコメントした。
日本公演が終わった直後の1966年の米国ツアー、 8月29日の サンフランシスコ・キャンドル・スティック・パーク公演を最後に、ビートルズはライブ活動を終わらせる。
過密なスケジュールに疲弊したなどさまざまな理由はあるが、音楽的には、当時の状況では止むを得ない明確な理由がある。
音響効果まで計算されたスタジオで録音されたレコードでの演奏は問題ないが、野外ステージや、室内であっても大型施設を使った録音(ライブ演奏)では、どうしてもハーモニーなどが上ずってしまい、満足いかない場合が多い。モニタースピーカーがないため大歓声とともに自分たちの声がかき消され、会場の音響システムも不備だからだ。ポールは「音感の悪さに気落ちしてしまう」と話している。
米国での公演をまとめた映画があるが、映像に合わせるために、部分的にレコードの回転数を上げたり演奏をカットしたりしている。そんな状況が、ライブ演奏に対する彼ら4人のやる気をさらに奪い取った。
日本公演の演奏曲目
1:ロック・アンド・ロール・ミュージック(1965)
2:シーズ・ア・ウーマン(1965)
3:恋をするなら(1966)
4:デイ・トリッパー(1966)
5:ベイビーズ・イン・ブラック(1965)
6:アイ・フィール・ファイン(1965)
7:イエスタディ(1965)
8:彼氏になりたい(1964)
9:ひとりぼっちのあいつ(1966)
10:ペーパーバック・ライター(1966)
11:アイム・ダウン(1965)
※演奏曲目は5公演すべて同じだった。カッコ内の数字は日本でのレコード発売年。日本公演のパンフレットには、「抱きしめたい」「ヘルプ」など12曲の解説が掲載されていたが、実際に演奏されたのは、「ペーパーバック・ライター」と「アイ・フィール・ファイン」の2曲だけだった。
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