牛丼チェーン最大手の吉野家が2月11日、一部を除く全国の約970の店舗で牛丼販売を休止した。BSE(牛海綿状脳症)問題で米国牛の輸入が停止されたあおりを受けた。最後の1杯を食べようと、店には未明から牛丼ファンや初体験組らが押し寄せた。「牛丼は日本の食文化」と街から消える味を惜しむ人たちの一方、「食材を海外に頼りすぎていたのかも」という声も聞かれた。
11日午前0時すぎ。東京・新橋東店は、カウンターの13席からあふれたサラリーマンらが、店外にも10人以上列をつくった。
並盛りと漬物を注文した建材メーカーの営業マンは、静岡に家族を残して単身赴任して5年目。不況で給料はがた落ちした。自前でつくる弁当よりも安い280円の牛丼は心強い味方だった。
「吉野家に通うのは、逆境にくじけないでほしいから。分かるでしょう、この気持ち」
牛丼を「食べ納め」に来る客は前日午後から急増し、通常の3倍近くに。予想を超える勢いで肉が消えていく。
11日午前6時、関東地方の8割、東海地方の7割、近畿地方の6割で売り切れとなった。
午前8時半、「新国民食 吉野家!」を書いたフリーライターの山中伊知郎さんは、さいたま市の自宅近くの店に妻と出かけた。「午前3時に売り切れました」。店員に言われ帰宅した。
20代のころ牛丼店で働いた。「吉野家の味とサービスは一つの完成形」と確信していたが、「ただ一つ、米国頼みの仕入れにスキがあったんですねえ」。
午前11時20分、東京都中央区の新大橋通り八丁堀店で、「最後の1杯になります」という女性店員の声が響いた。注文したのは千葉県市川市の会社員。「最高の味でした。でも、自分が最後の客になるなんて」
午後4時半。料理研究家の小林カツ代さんも、世田谷区内の店に駆け込んだ。だが、とっくに売り切れ。まだ食べられる別のチェーン店に入って「牛めし」を注文し、「おいしい」を連発した。
吉野家の味をひそかに尊敬していた、と話す20年来の牛丼ファン。「高価な肉ではないのに、余分な脂を上手に除いてきちんと味付けしている」
ただ、同じ味を家で作ろうとは思わないという。「これは外食の味。一つの食文化です。そんな牛丼がなくなるのは残念だけど、これを機に、食べ物のありがたさをもう一度考えてみましょうよ」
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