

長野電鉄終点の湯田中駅から車で5分。温泉街の狭い路地をのぼってゆくと、左手に木造4階建ての威容が目に飛び込んできた。創業250年。松代藩出入りの鍛冶職が発祥という金具屋は、ファンタジー映画「千と千尋の神隠し」のモチーフのひとつにもなったといわれる歴史ある宿だ。手ぬぐいを肩にひっかけ、目指すは鎌倉風呂である。(「どらく」編集長 小野高道)


鎌倉風呂は、木造4階建ての「斉月楼」1階にある。建久2(1191)年に源頼朝が渋温泉を通ったという伝説にちなんで、昭和11(1936)年に斉月楼や167畳もある大広間とともに造られた。老朽化で解体され、いまの浴堂は昭和52年にできた2代目だ。ヒノキづくりの浴堂に、瓢箪の形をした浴槽(よくそう)が愛らしい。湯けむりが立ち、すりガラスから差し込む光はどこまでもやわらかい。
金具屋は5つの源泉を引き、場所や源泉の深さによる地層の違いから3つの泉質を楽しめる。温泉はすべてかけ流し。お湯を温めたり水を加えたりせず、塩素なども一切加えていない。毎日、その日の天候や宿泊客数を考慮して湯の出す量をきめて、湯温を調節するという。まさに職人がこしらえる温泉なのだ。
鎌倉風呂は弱酸性の湯で、白い湯花が少し散った滑らかな色つやをしている。とっぷりつかる。コチコチの筋肉がじんわり弛緩(しかん)してくる。浴槽のヒノキのふちに首を押し付けてつぼを刺激する。これがまた、たまらない。
館内には鎌倉風呂を含め8つの風呂がある。浪漫(ロマン)風呂は西洋建築のにごり湯だ。戦前は「泥の湯」と呼ばれた。重厚な雰囲気が歴史を感じさせる。なんと源泉は浴槽の真下3メートルのところにある。美妙の湯、子安の湯など5つの風呂は予約なし、無料で自由に貸し切りにできる。


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