![]()


午前5時55分、日の出。昨夜旅装をといた「湖月」5階の部屋から専用のベランダに出て、目を凝らす。眼下にひろがる河口湖。湿り気を含んだ冷たい微風がほおをなでる。雲に覆われた真正面の空がだんだん朱を帯びてくる。そして――お目当ての富士山が、白雪を頭にかぶった顔をのぞかせた。富士見の湯を満喫するため、乱れた浴衣のすそ元もそのままに、武田信玄の騎馬武者よろしく、鼻息を荒くして1階の露天風呂へと直行した。(「どらく」編集長 小野高道)
まだ、誰もいない浴場。室内からあずまや仕立ての露天風呂へと出て、ざぶんと湯を揺らす。雲は刻々と流れ、かたちを変える。その色は刷毛(はけ)を幾度もはいたように、めまぐるしく移ってゆく。
奥行きを十分に感じさせる雲の間から、見知った姿の富士山が突然、現れた。やや青みを帯びた雲はまるで真綿ように秀峰をくるんでいる。山頂がくっきり見えた。雪の白さが目に焼きつく。
視神経への豊かで軽やかな刺激と、やわらかな湯が、どろんと疲れのたまったからだの緊張を、ゆっくりとほぐしてくれる。
それもつかの間、富士山は再び、雲に隠れてしまった。時間にしてほんの数分の出来事。そして、静寂に気づくというあんばいだ。富嶽は見えずとも、目に焼きついたその残像が湯につかっている温泉気分をさらに盛り上げてくれる。首までつかった湯が肌に心地よい。
泉質は「カルシウム・ナトリウム――硫酸塩・塩化物温泉」。無色透明で弱塩味無臭のこの温泉を引き立てているのは、やはり富士山の雄姿だろう。露天風呂には男女それぞれに名前が付けられている。男性用は、月明かりに浮かぶさまを表した「黒富士」。条件が重ならないとなかなか見られないという。女性用は、雪をいただく富士山に朝日がさし、山肌が赤く染まるさまを表した「赤富士」だ。
いい気分になってきて、そろそろ湯船から上がろうとすると、雲が切れ、富士山の稜線が浮かび上がってきた。うーん、どうやら、湯あたりでもしそうな、贅沢な時間がしばらく続きそうだ。







※当サイトの推奨ブラウザは、Windows Internet Explorer6.0以上、Firefox1.5以上、Macintosh Safari 1.3以上、Firefox1.5以上となります。
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
どらくに掲載の記事・写真の無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
©朝日新聞社
無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。