万歩計をつけてウォーキングするのも悪くないけれど、道端の野草を眺めながら散策するのは、もっと楽しい。コツさえ覚えれば、生き物の暮らしぶりや、自然と人間とのかかわりについて学ぶことができる。日本自然保護協会の自然観察指導員・田中利秋さんは、「オモシロ自然観察」と名付け、「井の頭かんさつ会」を主催している。田中さんに、自然観察のコツを教えてもらった。
自然観察というと、私たちはつい、都会から離れた自然の豊かな場所に出かけて行って、図鑑を片手に動植物の名前を確認し、記憶するというような、博物学的な態度を想像する。
田中さんが提唱する「オモシロ自然観察」はこれとは違い、生活圏の中で身近な自然に触れ、好きな生き物をよく観察する。野鳥でも昆虫でも、草花でも夢中になれるものができたらしめたもの。続いて、その生き物とかかわる他の生き物や環境に関心を広げる。花なら、花粉は何に運ばれるか、種をどう散布するかなどなど。そして核心は、自然の仕組みを観察し、理解するということ。
「目の前に生き物がいるということは、その生き物の生存戦略が成功した証拠。その成功戦略を見るのが、面白いんです。次に人間と生き物との関係が見えてくるのが面白い。人間が生き物にどういう影響を与えているかが、よく分かります」と田中さんは語る。
人間が与える影響について、考えさせられる一例は、田中さんが観察を続けている東京・井の頭公園のヘビだ。数年前から、ヘビが散見されるようになった。
ヘビがいるのは、エサになるネズミなどの動物が多く、自然が豊かな証拠、と思いきや、原因は人間が捨てる生ゴミだった。生ゴミをエサにネズミが集まり、ヘビも増殖。こういう人為的な影響でできた食物連鎖は「虚構のピラミッド」と呼ばれている。




しかし、数年前に井の頭公園は、ゴミ箱を撤去。ネズミが去っていったため、新たなエサを求めて、ヘビがあちこちに姿を出すようになった。田中さんは、野鳥のカイツブリが狙われる様子を目撃したそうだ。
身近な自然を何年もかけて観察しているからこそ、気がつく変化。テレビで生態系危機のニュースを見るより、すぐそばの環境だからこそ真に迫るものがある。
自然観察をより楽しくしてくれるものに、食べられる野草の発見がある。食べられるものと食べられないものを区別するには、観察眼が必要だ。春や秋に七草を食べた昔の人は、それだけ真剣に自然を観察していたということだろう。
意外なことに、一見殺風景な都会の原っぱや道端にも、食べられる野草は結構あった。タンポポやナズナ、ハコベ、ヨモギ、ハルジオン、ヒメジョオンなど。これらは、葉が地べたを這(は)うように放射状に広がっている。その様子がバラの花に似ていることから、「ロゼット」葉と呼ばれている。
なぜロゼット葉になっているのだろうか? 田中さんの解説によると、葉を放射状に広げることで、冬の間に日光を浴びやすくしている。また冬場は茎を高く伸ばさないため、養分を根っこに蓄えられ、人間や動物に踏みつけられても再生できるという。
さて、食べられる植物は簡単に見つかるか? 残念ながらロゼット葉の状態で見分けるのは難しい。花を待つのがいいだろう。「こういうものは、今、無理に判別しようとしない方がいいんです。判別できる時期が来るまで、自分なりに予測を立てて、答えを待つ方が面白いですから」と田中さんはアドバイスする。
一年目はまず推理、観察。次の年からは若芽を採取して食べる、というのも楽しいだろう。もちろん、その場所が動物の糞(ふん)などで汚染されていないか、じっくり観察しておこう。

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