






千葉県、房総半島のほぼ中央にある大多喜町。200〜300メートルの山が連なり、近くには紅葉の名所として知られる養老渓谷がある。山には杉や桧(ひのき)が植えられ、平坦地には田んぼが広がっている。
車で走ると、製材所が目につく。東京大学の演習林があり、かつては国有林の貯木場もあった。今でも19軒の製材所がある。
齊藤正則さん(55)は、大多喜町で製材所を経営している。この町に限らず、林業の後継者不足は深刻だ。山主から「これ以上、山の手入れができないから伐採して欲しい」という依頼が齊藤さんのところに持ち込まれる。輸入材との価格競争で山を見限って勤め人になった山主も多い。山の木が建材にならないままになっている。この豊かな森林資源を生かす方法はないものか、と悩んでいた時、「ちばの山を愛する家造りネット(ちば山)」の活動を知った。
「ちば山」は、工務店、林業家、製材所、建築士ら6人のメンバーが中心となり、千葉の木を使って本格的な住宅を造ろうと集まったプロ集団だ。千葉の林業を活性化するために、山主から施主まで巻き込んだ持続的な事業の構築を目指している。
彼らは、人手不足で手入れの行き届かない地元の林を伐採し、そのまま放置乾燥させた「葉枯らし材」を使う。「葉枯らし材」は、葉や枝がついたまま現地に長時間放置するので、木の芯まで乾燥が進む。十分に乾燥した材料を使うことで建築後の乾燥収縮が少なく、ひび割れを防ぐ効果がある。
この材料を生かすのが、「板倉造り」という工法だ。伊勢神宮などにみられる作りで、柱の間に無垢(むく)の板を落とし込んでいく。柱、梁(はり)などの構造材以外に外壁や内壁にもふんだんに葉枯らしした無垢材を使う。この工法は、強度や断熱性に優れ、湿度を調整してくれる。「ちば山」の「板倉造り」の住宅は、在来工法の約2倍の木を使う。
作られた家は、年月を経ても木の香りが漂ってくるような家だ。木は、柱や壁になっても乾燥すれば収縮し、湿気があればみずみずしくなる。かつて近隣で枝を伸ばしていた木が、今でも生きていると実感できる。
齋藤さんは山の所有者と交渉し、木の伐採、葉枯らし乾燥、搬出、製材を指揮している。発注を受けてから、材料となる木をどこで伐採するか決める。伐採する山の見学会も行なう。
建築士として参加している中村真也さん(50)は都内の企業でマンションやリゾート施設の設計に携わる一方、趣味で「住まいづくり研究所」というサイトを立ち上げていた。いつか木造住宅を中心とした仕事をしたかったからだ。サイトに寄せられる質問に答えながら、中村さん自身も木造住宅のことを勉強した。3年前に千葉の杉を使ったマイホームを建てて間もなく、地元の工務店が杉の無垢材を使った住宅を作っていることを知り、「ちば山」に加わった。
自分ももっと木造の家を設計したい。意を決して工務店の社長に売り込んだ。「ホームページを立ち上げて売りましょう。売り上げを倍にしますよ」。今、無垢材をふんだんに使った木の家の良さをサイトで伝えている。
「ちば山」の事務局をしている柏原博文さん(47)は、2001年夏に「ちば山」と出合った。「ちば山」が主催する木材市場見学会に参加し、豊かな森林資源が十分に生かされてないことを知った。みんながもっと千葉の杉を使わないと、林業も木材市場も衰退の一途をたどる。ベンチャーキャピタルに勤めていたため、ベンチャー企業で成長が期待されているIT、バイオ、環境などの業種のうち、環境ビジネスだけが期待通りの成果を上げていないことを知っていた。「ちば山」と出合って千葉の山と環境問題と木造住宅が結びついた。
「今でいうスローライフという概念ですね。自分のライフスタイルもそういうものでありたいと思ったし、ビジネスにもしたいと思っていました」
翌年、勤めていたベンチャーキャピタルを辞めて経営コンサルタントとして独立。本格的に「ちば山」に関わるようになった。山と町をつなぐローカルな仕事を、環境ビジネスのシステムにできるのではないか、との思いからである。
「ちば山」は2年前にNPOとなり、これまでに20軒の家を建てた。しかし、柏原さんは最近少し悩んでいる。
「ローカルビジネスとしては回っています。呼びかければお客さんも来てくれる。しかし葉枯らし材は調達と流通の安定が難しい。注文があってすぐに供給できるわけでもない。といって、効率的な仕組みを作ってしまうと、千葉の山を守り育てることとは結びつきにくい」と話す。
「ちば山」では伐採した杉林の持ち主には植林を提案しているが、山主の都合もあり植林が実現するとは限らない。本当は、家を建てた人たちとともに、新たに植林し一緒に育てて行けるようなサイクルを目指していきたい。
山の活用と、住む人の満足と。経済的なサイクルの上で成り立つ事業を持続させるために「ちば山」の試行錯誤が続いている。

【ちばの山を愛する家造りネット】http://www.chibayama.ne.jp/

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