




宮城県気仙沼湾に、毎年千人以上の子どもたちが訪れる牡蠣(かき)の養殖場がある。
経営するのは、畠山重篤さん(63)。漁民仲間とともに山に広葉樹を植える「森は海の恋人」運動に取り組んでいることが、小・中学校の教科書に取り上げられたからだ。子どもたちはここで、山の森の栄養分が川から海へ運ばれ、魚介類の栄養となっていくことを体験的に学習する。
畠山さんの活動は、20年ほど前に、フランスのロワール川河口の漁場を視察したのがきっかけだ。視察で学んだのは、「よい漁場は、漁場に注ぐ川がよいことと、川の上流には広葉樹林があること」だった。
その後、北海道大学の松永勝彦教授と出会った。
「魚介が育つために必要な海藻や植物性プランクトンの育成には鉄分が不可欠であることを松永教授に教えられました。森の木の葉が落ちて腐敗してできるフルボ酸鉄という鉄分が、雨水や地下水に吸収され、川から海へと運ばれる。とくに広葉樹林は毎年大量の葉が落ち、腐葉土層が早くできるので海にとって非常に大切だということを聞きました」
畠山さんは、1989年、「牡蠣の森を慕う会」を結成し、岩手県一関市室根町(当時は室根村)の協力を得て、漁民による広葉樹の植林活動をはじめた。
気仙沼や唐桑町と歴史的なつながりのある、室根町の人々が、畠山さんの植林運動に共鳴してくれたのだ。室根町は北上山系に位置し、気仙沼湾に注ぐ大川上流、約20キロのところにある。室根町には1300年の歴史を持つ室根神社がある。この神社で4年に一度行われる大祭礼に必要な粥(かゆ)は気仙沼から、塩は唐桑町から奉納され、その伝統は今も続いている。
植樹4年目からは、室根町矢越山の「ひこばえの森」と名づけられた地域で会と室根町が一緒に植樹をしている。植樹の案内にはこう書かれている。
<毎日、大川の水で生活されている気仙沼の皆さん、大川の水で稲作されている農民の皆さん、養殖業を営む漁民の皆さん、そして未来の環境を担う少年、少女の皆さん、一緒に植樹祭に参加しませんか>
室根町「山」と気仙沼という「海」が川によってつながった。
海の食物連鎖を考えると、魚が1キロに成長するには、10キロ分の小魚が必要だ。その小魚が成長するために100キログラムの動物性プランクトンが必要となり、さらに1トンの植物性プランクトンが必要だという。
畠山さんは慕う会の結成後も、日本や世界の海を歩き、あらためて海の生産性と生態メカニズムに驚いている。
「日本はすばらしいところです。国土の7割は森。その森の栄養分を運ぶ川が海に流れ込み、植物性プランクトンを育ててくれる。このプランクトンは、魚や貝を育ててくれるし、光合成をして二酸化炭素を固定してくれます」
畠山さんは、この植物性プランクトンを「海の森」とよぶ。
「もともと二酸化炭素に覆われていた太古の地球に酸素を供給したのは植物性プランクトンです。彼らがいまの地球環境を作ったのです」
さらに、最近のクラゲの大発生について、畠山さんは警告する。
植物性プランクトンにはケイソウ類とウズベンモウソウ類の2種類がある。このうち、魚や貝が食べるのはケイソウ類で、ケイ酸を必要とするという。
「ケイ酸は川砂によって供給されます。川にダムができて川砂が供給されないと、ケイ酸を必要としないウズベンモウソウ類が発生します。これが有害なクラゲのエサになり、赤潮の原因にもなるといわれています。魚や貝が死んで、クラゲが増える。最近の東シナ海や日本海のエチゼンクラゲの発生は長江のダム建設と何らかの関係があると思っています」
陸地と海との循環の仕組みは、水蒸気や海流だけではなく、微量のさまざまな成分の循環を含む。これを理解し、最適な循環システムを守り、育てていかなければならない、と畠山さんは言う。
気仙沼湾の牡蠣が、大きくおいしく育つよう、今年も室根町で植樹が行われた。


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