





砂漠化が深刻な中国・黄土高原の北東に位置する山西省大同市で1991年から植林活動を続けている日本人がいる。NGO「緑の地球ネットワーク(GEN)」事務局長の高見邦雄さん(59)だ。毎年、100〜120日は大同に滞在し、農民たちと植林や育苗を行っている。
かつてかなりの規模の森林が広がっていたと考えられている黄土高原一帯は、過剰な森林伐採と放牧で荒れ地になった。緑を取り戻す取り組みは、高見さんたちの活動が始まる前にも行われていた。中国政府は1950年代に、ポプラやコウヨウザンというスギを植えた。しかし、10年ほどすると、成長に多くの水を必要とするポプラが育たなくなった。
高見さんは、初めて大同市に行った時に見た、木のはえていない山の姿が忘れられない、という。「誰かが、本気で何とかしようとしなければ山に緑は戻らない。農村の人たちは貧困から抜け出せない」。水不足と貧困が重なり、緑化が難しいといわれる土地で、15年以上にわたって植林活動を続けてきた理由を話す。
活動を始めたきっかけは、中国とのつながりだった。高見さんは、1966年、東京大学に入学したが、学生運動に深入りして1970年に中退。日中国交正常化前年の1971年、日中友好代表団の一員として初めて中国を訪れて以来、日中のさまざまな市民運動にかかわっていた。
80年代に入り中国が急速に近代化したころ、日本では公害が社会問題として関心を集めていた。やがて中国でも環境破壊が進むと考えた高見さんは、日中をつなぐために草の根でできることは、緑化協力だと考えた。「技術協力は政治が絡むので市民運動としては難しい。木を植えることぐらい、誰でもできる」と。
最初の活動は、苗木の資金を提供することだった。カンパで260万円集めた(当時のレートで10万元)。マツの苗木は1本1円。1ヘクタールに3300本の植樹が、人件費も含めて2万円でできた。
「言葉も通じず、技術もない。知っている言葉はニイハオ、シェイシェイ、ツァイチェン、ツーソウザイナーリ(便所はどこですか)の4つだけ。それで、通訳を連れずに農村を見て回ったのです」
展望が見えてきたのは、1994年。大同市青年連合会の副主席だった祁学峰さん(当時32)が協力相手となって中国側に事務所が開設された。
「中国に滞在している間は、ずっと彼と一緒に農村を回りました。農家に泊まるときも一緒。いろんな問題を徹底的に議論する。こういう活動にとって一番大事なのは協力相手です。私たちだけでは何もできませんから」
日本の専門家による協力体制も整った。大阪市立大学附属植物園の建設に尽力し、海外でも豊富な活動経験を持っている現代表の立花吉茂さん(80)や、東北大学植物園長を96年春に定年退職した顧問の遠田宏さん(70)らが加わってくれた。
植物の専門家の参加によって、新たな活動が始まった。苗木の育成や人材研修を行う拠点施設「環境林センター」を設立。最適な樹種を見つけるための実験施設「霊丘自然植物園」や実験林場「カササギの森」の運営もはじめた。遠田さんは年間70〜80日、大同に滞在して技術指導に当たっている。
小学校の付属果樹園づくりも、高見さんたちの緑化協力活動のひとつだ。貧困な村の教育を支援する取り組みで、アンズなどを植え、収入の一部を就学費用や校舎の改築などにあてている。アンズの種からとる杏仁(きょうにん)は咳止めの薬となり、付近の主要農産物のアワ・キビなどと比べて収入が4〜10倍となる。従来は大学に進学できる子どもはまれだったのに、この収入のおかげで20人以上が大学へ進学した村もある。村の様子はすっかり変わりつつある。
植樹のワーキングツアーも用意した。農民や子どもたちと一緒に小学校付属果樹園などで植樹作業をし、農家で昼食をごちそうになり、事情が許せば農家にホームステイもできる。「カササギの森」にモンゴリマツを植林する。日本からのツアー参加者は、15年間で2300人以上になった。大手企業の労働組合のほか、個人での参加も多い。最近は、団塊世代が目立つ。
1992年1月、大同市に現地調査に行った仲間5人のうち、今も活動を続けているのは高見さん一人だ。「ぼくは逃げ足が遅かったのです。もうやめようかと何度も思いましたよ。こういう活動は、始めるのは簡単なんです。持続するのはその何倍も難しい。だけど、もっと難しいのはやめることです」

写真提供:「NGO緑の地球ネットワーク」http://homepage3.nifty.com/gentree/

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